Suzu Masa ブログ

辛酸なめた男が美容室「経営」をリアル・ガチで語る

【広告コピーライティング講座】 その2「異化効果」

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予定調和では響かない

 

シリーズ・広告コピーライティングの2回目です。1回目の「韻を踏む」をまだお読みでない方はあわせてお読みください。

言葉は予定調和で使ったとして、せいぜい肯定する意見であっても、その通りだよね、で終わってしまいます。だから印象としてほとんど残りません。

 

たとえば、男性は論理的に説明すれば納得が得られる。

女性は、理屈ではなく感情に訴えれば話は早い。

 

なんていうのは一般的によく言われていることで、その通りだね、と予定調和に話が進みますが、それはそれで当たり前すぎてなんの感興も催しません。しかも話として記憶に残らない。人の心も動かしません。

 

「異化」の具体例

 

ところが、こういう言い方だとしたらどうでしょう。

 

「トタンがセンベイ食べて

春の日は穏かです

アンダースローされた灰が蒼ざめて

春の日の夕暮は静かです」

 

中原中也の『春の日の夕暮』その書き出しの部分です。

 

え? トタンがセンベイ食べるってあり得るの?

アンダースローされたってどういうこと? 灰がなぜ蒼ざめるの?

 

こういったように平穏に予定調和に話が流れるのではなく、意外に展開する光景に目が奪われます。

トタンやセンベイや灰がまるで意志のある生き物のように動いていますね。

それでいて、ただの“静か”と表現するよりも、より静かさが深まった、穏やかさが強調された、そんな感慨に打たれるのではないでしょうか。

 

「静か」の延長で連想されるのが次のフレーズです。

 

「静かさや岩にしみ入る蝉の声」

 

ご存知、松尾芭蕉の有名な句です。

今は盛りの蝉しぐれ。本当はうるさく聞こえるものを、「岩にしみ入る」で蝉の声を吸収してしまいます。そこに静かさがなおのこと強調されます。

 

このように、予定調和で言葉が終始するのではなく、「え?なんで?」という言葉の展開。それでいてとても印象に残る表現。

 

これを「異化効果」と言います。

 

 中島みゆきさんの表現

 

もう少し例を挙げましょう。中島みゆきさんの数々の独得な表現。

 

「ひとり上手と呼ばないで

心だけ連れてゆかないで

私を置いてゆかないで

ひとりが好きなわけじゃないのよ」(ひとり上手)

 

「別れはいつもついて来る 幸せの後ろをついて来る

それが私のクセなのか いつも目覚めれば独り」(わかれうた)

 

「あぁ 人は昔々

鳥だったのかもしれないね

こんなにも こんなにも

空が恋しい」(この空を飛べたら)

 

「観音橋を 渡らず右へ

煤けた寺の縁の下くぐり

グズベリの木に登って落ちた

私は橋のこちらの異人」(観音橋)

 

ひとり上手とは普通は言いません。せいぜい「ひとりが似合う女」と表現するでしょうか。それを「上手」と表現することで強力な異化効果を発揮しています。

同じように、わかれる悲恋を繰り返していても、それを生得のもののように「クセ」とは言いません。

 

鳥だったかもしれない人間。鳥葬という葬儀の形式が昔々にはありました。それはご先祖が鳥に姿を変えてやってきて、死んだ人の魂を山の向こうへ、つまりあの世まで無事に届けてくれる。そういう、死と再生の神話があったからです。

独得のメロディーと相まって、そんな哀感あふれる、古層に堆積した記憶といったものをほうふつとさせます。

 

観音橋が出てきたら、普通は渡ります。それが、「渡らず右へ」。しかもわざわざ煤(すす)けた寺の、胎内くぐりを思わせる縁の下をくぐって木に登って落ちる。さらに「私は橋のこちらの異人」だという。

 

とても考えさせられる歌詞です。さらりと歌い流し聞き流すことはできませんね。見事な異化効果です。

 

糸井重里氏が放った異化

 

もうひとつ、きわめつけの例。

 

おいしい生活

 

糸井重里氏の広告コピーです。1980年代の初頭に、コピーライターブームを盛り上げた記念碑的なコピーです。『日本のコピーベスト500』の第1位に選出されました。ちなみに第2位は、同じく糸井氏の「想像力と数百円」(新潮文庫)でした。

「おいしい」も「生活」も普通の言葉。しかし、だれもこの2つの言葉を結び付けようとは思いもしません。「おいしい」と「生活」とは異質だからです。これを結び付けることで強力な異化効果を生んだのです。

また、当時の高度経済成長期に、生活に余裕を持つ消費トレンドという大きなムーブメントが背景にあったことも見逃せません。

 

職業柄、数多くのコピーライティングを目にしてきましたが、この「おいしい生活」を超えるコピーにいまだ出合っていません。

 

コピーを創ってみよう

 

さて、それでは異化効果のある広告コピーを創ってみましょう。

 

技術の確かさ、豊富なメニュー、フレンドリーな接客、リーズナブルな料金といった、予定調和な謳い文句をいくら駆使してアピールしても、消費者の印象に残りません。心にも刺さりません。

心に刺さらなければ来店は見込めません。

 

だから予定調和を裏切る表現を、つまり「異化」を考えてみることです。

たとえば・・・

 

 

▷集客編

「髪を切らずに悲しみを断ち切る」

 

「髪を染めずに心を染める」

 

「私に5分の時間をください。あなたのことが知りたいから」

 

「たまには他店に浮気して。うちの良さが改めてわかるから」

 

「ふだんを変える。それがいちばん人生を変える」

 

「キレイな人の、私、何もしていません、は大抵ウソです」

 

などなど。

 

 

▷求人編(新人編)

「いやいや働くほど、人生は長くない」

 

「あなたの働く目的は何ですか」

 

「5年後の未来を聞こう」

 

「出るクギ歓迎。出過ぎるクギもっと歓迎」

 

「あなたの理美容師人生を決する大事な一歩。お金や待遇だけが判断基準ですか」

 

 

▷求人編(中途採用編)

「あなたは昨日、何時間生きていましたか」

 

「人柄募集」

 

「組織とは、互いのハラを見せ合うことではない。みんなで同じ方向を見ることだ」

 

有限の財産である「お金」は使わず、無限の財産である「知恵」を使う。広告コピーは言葉。だから掛け値なしにとてつもない武器なのです。

 

「Think different」(スティーブ・ジョブズ

 

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初出掲載:2020 年3 月19 日