Suzu Masa ブログ

辛酸なめた男が美容室「経営」をリアル・ガチで語る

人時生産性に直結した給与システム【2】

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 施術工程ごとの時間と単価を決める

 

いよいよ「人時生産性に直結した給与システム」の内容に入っていきますが、支給する給料の原資は売り上げであるという原則をよく理解していただきたいのです。売り上げとは、提供した技術や店販品に対して、お客様が支払った料金でしか成り立つことができないということです。この原則をスタッフはよく理解しなければなりません。スタッフのなかには給料は先生(経営者)からいただくものと錯覚している人がいます。こういう思い込みを野放ししていると、お客様不在の営業が蔓延(まんえん)してしまいます。

 

メニューごとの単価も支給できる給料もすべては時間価値によって決定されます。例えば、カラーやパーマの放置時間など入らない、材料費は考慮に入れなくてもそれほど影響はない、そんなわかりやすい理容の総合調髪メニューで説明します。

 

まず総合調髪を構成する施術工程ごとの時間と単価を設定します。

 

  ❶ カット 20分 2400円

  ❷ シャンプー 7分 840円

  ❸ シェービング 7分 840円 

  ❹ ブロー 6分 720円                          

 総合調髪 40分 4800円(お店によって施術の工程時間は異なる)

 

単価設定は10分1200円が基本です(すべて税抜き価格)。1分は120円です。根拠は、時間価値がサービス業の場合、10分1000円が一応の最低限の目安だからです。これ以上になると付加価値の高い店、これ以下になると付加価値の低い店となります。さすがに値上げをしましたがQBハウスの考え方のベースは10分1000円で出発しています。フル稼働して1時間6000円。材料費は一切含まれませんから、人時生産性はそのまま6000円です。業界平均の生産性より3倍も高いのです。ということで、ですからこの例の場合、40分4800円。標準より少々高い価値を提供する店です。理容の場合、総合調髪に1時間かけて4000円も取れないなんていう例が多いですが、価格設定がそもそも間違っています。

 

人件費率を売上高の40%と決めてしまう

 

次に、人件費率を考えます。望ましいのは売上高に対する人件費率は40%です。理美容の特殊事情が反映されますが、この人件費率は業種業態によって違います。メーカーなら25~35%、卸売業なら10~15%、小売業なら15~20%といったところです。最近は理美容業で50%を超えるようになっていますが、売り上げは伸びずに人件費が伸びているといった望ましくない傾向が顕著です。理想は、人件費率は40%を超えない、そして労働分配率(粗利益対人件費率)は50%を超えない、しかし支給する給料の総額は増えることです(知り合いのサロンでは人件費率は20%、労働分配率は23%、給料は平均的なサロンより3割増しというところがあります)。ここにも時間当たりの効率経営が望まれるところです。

 

ですから例に挙げた総合調髪の場合、4800円の40%ですから人件費は1920円と決めます。1人のお客様を総合調髪で担当する、その場合かかった時間と料金は40分で4800円、かかった人件費は1920円となります。

 

■□■□■

 

これを工程ごとに分解します。カットとシャンプー、シェービングとブローですね。カットとブローはスタイリストが担当するでしょう。シャンプーとシェービングはアシスタントの担当とします。すると、こういう工程ごとの給与額がわかります。

 

  ❶ カット 2400円×40%=960円

  ❷ シャンプー 840円×40%=336円

  ❸ シェービング 840円×40%=336円

  ❹ ブロー 720円×40%=288円                  

  1人の総合調髪に対する支給給与額は1920円(売上高人件費率40%)

 

カットとブローをスタイリストが担当したとすれば、スタイリストの給料は960円+288円=1248円となります。シャンプーとシェービングをアシスタントが担当したとすれば、336円+336円=672円です。しっかりとアシスタントも売上貢献しているのです。業界の常ですが、スタイリストはアシスタントの売上貢献を含めずに1人で4800円売り上げたとする評価基準は改めなくてはなりません。すべては時間が基準になります。時間に対する価値をスタッフの貢献度合というメジャーで合理的で客観的に評価するべきです。

 

こうなると、いままで売り上げに貢献していないとみなされていたアシスタントが、しっかりと貢献しているという評価が確定することになりますから、俄然やる気が出てきます。自分のできる技術分野が増えれば増えるほど貢献できる分野が増えるわけで、ステップアップを目指して技術の勉強とトレーニングにも身が入ります。

 

またスタイリストにしてみれば、いままで自分1人で売上貢献していたとのオゴリはなくなり、きちんとアシスタントに向き合えます。感謝の気持ちも起こってきます。店内に良い空気が流れ、お客様は敏感に反応します。十分なアシスタントがいないお店の場合でも、スタイリストは他のお客様に積極的にフォローに入ります。なぜなら、しっかりと貢献給として反映されるからです。こうやってサロンの活性化は促されます。(活性化とはこういうしっかりとした裏付けがないと持ちません)

 

難易度というあいまいさは捨てる

 

ところが、なかには技術の難易度がこの給与システムには考慮されていないと不満を感じるスタイリストもいるでしょう。このむずかしいカット技術を習熟するために日夜トレーニングに励んでやっと習得した技術なんだと。気持ちは十分理解できます。そうであれば10分1200円の価値基準をベースにして、それ以上の価値を料金に反映させればいいのです。ただし、けっして下げてはいけません。例えばカット30分3800円でも4000円でもいいのです。でもそれにこだわり過ぎると、今度はお客様からの支持が得られなくなる危険性があるばかりか、スタッフ同士互いの得意技術に価値があるとばかりに主張合戦になって収拾がつかなくなります。あくまでも10分1200円を基本に据えて料金決定並びに給与決定を行ってください。難易度という不合理な価値を基準にすると、せっかくの公平性・合理性という評価基準が損なわれます。

 

そしてもう1つ。上記はあくまでも材料費を考慮しない総合調髪メニューでしたが、高価な薬剤を使用してカラーやパーマを行った場合には、すでにそうなっていると思いますが、しっかりと料金に加算してください。加算した料金からそれぞれの工程別時間を割り振りするだけでいいのです。その場合も人件費率は40%で変えてはいけません。

 

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技術工程別の所要時間を決める際に規定を設けます。それはその技術を施術する際に適正な時間を決めておくというルールです。例えばカットなら、熟練した技術者のスピードを基準にすることです。なぜなら、とても到達困難なスピードではなく、トレーニングをある程度すれば可能な時間だからです。だらだらと時間をかけて時間の無駄遣いをやっていいわけがありません。そしてたとえカット時間が所定の時間を超えても、それは決められた時間の決められた料金として動かさない、もちろんその人の給料が増えることはありません。カットを30分かけても、規定では20分であり料金も2400円に変わりはないのです。こうなると、スタッフの技術に対する時間感覚が養われます。より短時間に技術をこなすことがよいことだという文化が根付きます。

 

このように、カラー、パーマと工程ごとの所要時間を割り出し料金を決めていくのです。同じカラーでもパーマでもメニューが複数ありますからメニューごとに施術工程を分解して決めていくのです。(カラーやパーマの放置時間は工程に含まなくて結構です。なぜなら生産に直結していない時間だからです)

 

指名客売り上げは稼働率で反映

 

そうやって決めていってもまだ不満を持つスタイリストがいるかもしれません。そういう場合の理由はこうです。自分を指名してお客様は来てくださる、指名の手当ては反映されないのかと。それに対する答えはこうです。指名客はあなたの担当ですから必然的にあなたの稼働率は上がり貢献度も上がります。したがって給料も増えます、と。よくリピート率を給料に反映させる例を見ますが、ではリピートの割合をどう見るかといった途端、合理的な説明が怪しくなります。指名売り上げの○%をリターンしようとしても、ではその○%はどういう根拠から定めたのかと問われれば、答えに窮するでしょう。あいまいは判断はやめたほうが賢明です。

 

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以上が、時間をすべてのベースにした、つまり「人時生産性に直結した給与システム」の内容です。難易度、指名といったあいまいな部分を排し、まして、店長や社長のお気に入り、嫌われ者といった情実人事の入り込む余地のない給与システムの中身です。がんばって売上貢献した人にはがんばったぶんに応じて貢献給として反映されます。貢献しない人にはそれに応じた給与しか支給されません。じつに公平で合理的・客観的なシステムであると自負します。

 

くりかえします、人時生産性という、労働集約型の業界に大変相性のいい生産性の評価基準に直結した給与システムの基本を述べました。全メニューの料金、施術工程別の時間を割り出してみてください。わからないことがあれば個別に対応させていいただくとして、基本の考え方だけはしっかりと学んでいただくことを望みます。考え方がぶれていてシステムだけを導入しようとしても失敗するからです。

 

なかにはこんな前向きな経営者もいらっしゃるでしょう。うちは10分1200円じゃなくて2000円にしたいなど。大いに結構です。“ただし‥”の注釈付きですが、お客様がそれを支持してくださるか、です。慎重に「値決め」をする必要があります。(無理のない値上げの方法は別の機会でやりたいと思います。これにもちゃんと顧客心理に則った値上げの方法があるのです)

 

次回ではその応用編として、売り上げが伸びれば伸びるほど人件費率は下がり、反対にもらえる給料の総額は増えるという内容をお伝えします。おそらくこういう切り込み方でなければ、究極的には生産性は上がらずに人件費率は上がるままという業界に巣食った病根を完全に取り除くことは不可能でしょう。

 

生産性とは機械や道具や手法の問題ではなく、姿勢の問題である。換言するならば、生産性を決定するものは、働く人たちの動機である。(ドラッカー

 

※施術工程別の所要時間に関しては、テイラーの科学的管理法の応用です。

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初出掲載:2020 年3 月19 日